屍体少女のSS墓地/4月10日まで休止。新人賞向けの長編書いてます

SS置き場です。アイマス、デレマスメイン。

みくりーなSS「りーなは雨の音を理解する」

女の子ってホントに分からない。

不可解で不愉快でつぶさにぐったり。時々ひどくうんざり。

特にこんな日はたまったものじゃない。

「で、夏樹ちゃんも来るの?」

「いや、菜奈ちゃんと打合せしないといけないからって……そんな言い方しなくてよくない?」

「……」

むっつりと眉をしかめてふくれっ面。今日のみくちゃん、ちょっと不細工。似合わない表情に胸の中にもやもやしたものが溜まる。借りてきた猫の気持ちってこんな感じ?むー。

「ヤベスポコユス……心配、です。なんだか、今日の二人、いつもより仲悪いみたいです」

「「そんなことないにゃ!/から!」」

「そこは息が合うんだ……」

 美波ーニャと私たちはダブルデートに来ている。

東京浅草かっぱ橋の金物ロード。正確には道具街?ほんの少しだけほこりを被った鍋や大釜が所狭しと置かれたお店を見て回る。

ヴァルショイ!カッコイイです!とアーニャが目を輝かせながら感嘆の声を挙げている。なんというか、確かにホンモノ!古い!職人!って感じがしてサイコーにロックな感じ。流行に流されないで、本質?をついてる感じが?

「みくちゃん、もしかして具合悪い?」美波ちゃんがみくちゃんに心配げに声をかける。

「あっ、ごめん。全然、大丈夫。体調はいいから、美波ちゃんは心配しないで」

「シュバリーシカ……みくにゃんが心配です」

「ううう、ホントに大丈夫だから」

「みくにゃん」

「ん?」

アーニャが手をひしゃくのように曲げて猫のポーズを取り、「にゃー」と言って小首をかしげた。

「「「!!!」」」

「元気、出ましたか?」

顔を赤らめて、こくこくとみくが頷く。

「それは、よかったです」アーニャの微笑みに私は落ち着かなくなる。いや、美波ちゃんほどではないけど。美波ちゃん、鼻血出しながら涙流さないで。変質者みたいだから。一遍の悔いなしみたいな顔もやめて。アイドルとしてNGだから!

 

 

 

 明治時代風の家具で統一された、こじんまりとした喫茶店に入り、カフェオレを注文する。

「りーな、折り入って聞きたいこと、あります」

「えっ、私に?」

「はい、私もロックについて、知りたいです。教えてくれませんか?」

「あ、あああいいよ!うん!ロックね!ロック」

「……これはダメなヤツにゃ」

「バリショーェスパシーバ!ありがとうございます!」

「ロックは……ギターだよねぇ」

「ギターですか!カッコイイです!」

「あ、うん。そうそう!それから……プログレとか」

「ダー!ワタシ、プログレ知ってます!マイク・オールドフィールドやアレアとかですね!」

「そ、そうなんだよ!アーニャちゃんはロック分かってるねえ!」

「では、ロックはギターでプログレッシブなのですね!」

「ま、まあ、そうかな~」

 大変まずいことになった。

目線でSOSを訴えていると、美波がさりげなく話題を変えてくれた。

 ふう、なつきちみたいにこれがロックだってギターをかき鳴らせたらどんなにカッコ良かったか、でもいつか、頑張り続ければ私もなつきちみたいになれるかもしれない、その考えに少しだけ胸が躍る。私、今歌いたい、みくちゃんと。みくちゃんはどうだろう。ふと隣の席を見るとみくは美波とアーニャの会話に笑みを浮かべながら、カフェオレをチェイサーでぐるぐる混ぜていた。結局、みくは冷めたカフェオレを最後まで飲まなかった。

 喫茶店を出て、今度は駅からかっぱ橋と反対の道を歩いていく。

「ここが江戸東京博物館ね。こういう所アーニャちゃん喜びそうだから私も一度来たかったの」

「ダー!ワタシ、お城大好きです!特に犬山城はナイヴィッシィです!川岸の高い崖の上にある木造の天守がとても美しいです。ワタシ一度行ってみたいです!」

「そ、そうなんだ。ここは江戸中心だからそれはちょっと展示されてないかなぁ」

「なら、新撰組とかどうかな。江戸ならあるんじゃない。ね、みくちゃん?」

「ソウダネ」

「……」

 えっ。

「あ、ほら、みくちゃん、飲み物買ってこようか。咽喉渇いたでしょ」

「渇いてない」

「ホントに?みくちゃん、汗っかきだからこまめな水分補給もアイドルの仕事にゃとか言ってたじゃない」

「自分の持ってるもん」

「えっ?持ってなかったでしょ」

「持ってるもん」

「……」

「……」

なんなの!なんなの!なんなの!

みくちゃんが何を考えているのか私には全く分からない。不満があるなら隠さず文句を言うのが前川みくだったはずだ。

 江戸東京博物館を出る頃になると私は徒労感ですっかり疲れてしまっていた。みくも私も気を遣って、美波-ニャとは館内では別行動を取ったために、私はみくちゃんに一方的に話し続け、やがてただ資料に目を通すことだけに集中する時間を過ごした。

 今日は特別な日になるはずだったのに。

どうしてこんなことになったんだろう?

 

 

 

江戸東京博物館を出て、雷門に向かっているとにわか雨が降り出した。

タン、タン、タタン、ババババババ。コンクリートに叩きつけられる水滴。私たちは慌てて、近くにあったビルの小さな軒に避難する。軒は狭く、ドーム型の小さな笠が2つ、3つ飛び出した所の下に入った。必然的に美波アーニャ、そしてみくと私に分かれざるを得ない。

 雨は強くなり続け、横薙ぎの風が体を冷やしていく。タン、タタン、ババババ、タン、タン、タン。

 数メートル先では美波がアーニャと笑い合っている。二人の声は雨の音にかき消されてしまっている。

 ハイビスカスの髪飾りをしきりに触っていたみくの口から息が深く漏れるのが聞こえた。

 ため息をつきたいのは私のほうだ。降水確率なんて0%だったし、折角みくちゃんとデートする計画を立てていたのに、全くの無駄になってしまった。

 私、何してるんだろ。

 いま、私には手と耳だけがある。

 バババババとドラムの音のように鼓膜を震わせる雨音。

それは私の外側だ。なら、この指先に少し触れているだけの手は?わからない。内側?外側?いつも触れているはずの手。これは、私の内側か?私は内と外の境界にあるなにかに意識をむける。手足を動かさないで、頭を動かさないで、じっとショーケースのマネキンになったつもりで、それでも私がここにいて、あの子もいることを確認する。腹立たしい、自分勝手で、理解できない、他人じゃない何かの存在を。

 この子の筋肉が。一、二、三、と動く。

 かすかに身体を揺らしている。

 胸を動かし、鼻から息をしている。少し鼻水の音もする。

 私は渇いている。

 自分のからだの内側に、バババババと機関銃のリズムが満ちはじめていると感じる。満たされない。

触れたい。

冷たい指先、濡れて鈍く光る首筋、滴をためた睫毛。

 私は雨の中に飛び出した。振り返り、大きく胸を膨らませる。

 「らしくないぞ、前川みく!!」

 重くなったコートとレザージャケットを脱ぎ捨てた。おもいっきり歌うには邪魔なように感じたから。

「Over heat?Oh デッドライン

気にしてたら つまらないぜ

思うまま感じるまま 真っ直ぐに

今 走り出す夢とキセキが 光って

ほとばしる beat 抱きしめて Yeah! 歌うから

もう止まらない 熱くきらめく想い

手を伸ばせ もっと高く

君と 君と 君と さあ進もう」

ああ、気持ちいいなぁ。少しすっきりした。

「なんかよくわからないけど、みくちゃんは私の、大切なパートナーだよ。この歌、みくちゃんと歌うの、いつも楽しみでさ、すっごく楽しいんだ。悩んでいるなら何でも言ってほしい。私がみくちゃんを傷つけたならいつもみたいに怒って!解散にゃー!!ってさ。それが、みくちゃんでしょ?」

「ちがうの」

「え?」

「……」

「私に怒ってるんじゃないの?」

「ちがうの。そんなんじゃないの。みくは、りーなちゃんに!頑張ってほしかっただけなの!待って言わせて。りーなちゃんは夏樹ちゃんや、輝子ちゃんや涼ちゃんからたくさんロックやパンクを教えてもらって、ギターも本格的に習って、成長してる!邪魔になりたくない!私、ロック知らないから。りーなちゃん、最近寮に帰るの遅いし、話も少ないから、寂しかったけど、我慢するしかないって思って。私、りーなちゃんの力になりたかったから。でもそのままじゃ、つらくて。つらいって何度も何度も何度も!言ってるのに、りーなちゃんは気付いてくれなくて。それなら、少しりーなちゃんと距離開けて、しばらく見守るしかないやって思ったのに。わかんなくなっちゃったんだよ。どう、話していいか。こんなぐちゃぐちゃな気持ち知らないもん。わかんないもん」

「待って。つらいって、そんなの私、一度も聞いてないよ」

「ごはん、少し残した」

「はっ?」

「大好きなハンバーグ、残したり」

「そんなの、分かる訳ないじゃん!?」

「分かるよ!りーなちゃん、女の子でしょ!」

「そーだよ、女の子さ!だからなに。女の子なら、なんでも分かるって?そんな筈ないでしょ?オトコノコ、オンナノコ、そんな言葉使わないで!私はりーなだよ。りーななんだ!みくちゃん誰を見てるの!私のことを見なよ!」

「見てるよ!りーなちゃんよりずっと、ずっと見てる!りーなちゃんの方が見てないよ!みくのことだって!自分のことだって!りーなちゃん、自分のことも知らないでしょ!歯磨きしているときに、考え事をしていると歯ブラシ噛んでしまうこととか、ロックとか言いながら健康志向の食事ばっかり作ってる所とか!何、あの料理!お塩が全然足りてないよ!りーなちゃん、おばあちゃんなの?」

「おばあちゃんを馬鹿にしないでよ!塩が足りてないって、みくちゃんが塩辛いの大好きなだけでしょ?人のこと言える?みくちゃんの嫌いなアジのほぐしを野菜炒めにこっそり入れていたときなんか、すっごく怒ったじゃないのさ!魚嫌いなのにゃって?ネコキャラなのに魚食べられないってどうなの?それでネコキャラを極めるにゃって筋が通ってないよ。ぐにゃぐにゃじゃん!ネコの額にもほどがあるよ!たまげるなぁ、みくちゃんがネコなのは語尾だけだよ!あと、寝息うるさい!」

「鼻詰まるんだから仕方ないでしょ?それとおっきな声出すにゃ!私たちアイドルだよ!人目についたら良くないにゃ!」

「みくちゃん、プライベートで外に出るときはにゃ!って言わないんじゃないの?人目を気にする前にちゃんと答えて!美波ちゃんとアーニャちゃんの方見ないでさ」

「こんの……」

「え?」

「バカ!」

小さな箱が私のデコに刺さり、地面に落ちた。

「いてて……これ、もしかして」

「……せっかく、頑張ってチョコ作ったのに……ひっく、作ったのに!台無しになっちゃったよおお」

「いや、包装は駄目になったけどほら、袋に包んでるんでしょ?開ければ食べれるって」

丁寧に猫柄のリボンをほどいて、焦げたにおいのするチョコを一つ摘まんで、個包装を外して口に入れた。

「……美味しい?」

「美味しく……はない。なんか焦げ臭いし」

「美味しいって言ってよ!」

「理不尽だ!?」

「でも、食べてくれるのはうれしい……かも」

「食べるけどさ、みくちゃん料理できないんだから、言ってくれたら教えたのに」

「もう!そういう所がりーなちゃんはダメダメだよね!」

「はいはい、ダメダメでいいから、ほら、なんか着替えでも買いに行こう。もう手がかじかんじゃって、うまく動かないから」

「……うん」

「後、美波ちゃんとアーニャちゃんにも謝らないと、二人に気を遣わせちゃったし」

「……うん」

「それで、結局みくちゃんは何が言いたかったの」

「あーあ……なんかりーなちゃんのこと考えるの、損な気がしてきたにゃ」

「なんだよ、それ。あ、そういえば、ほら私もみくちゃんにプレゼント」

「え?」

「なに、要らないの?」

「ううん、いる。ほしい。でもりーなちゃんくれないと思ってた」

「えっ、なんで?」

「バレンタインなんて、りーなちゃん興味なさそうだったし」

「う、そんなことないよ。まあ、雰囲気的にちょっと言いづらかったから」

「もういいよ。……ありがと、りーなちゃん。……」

「えっ、何?」

「なんでもない、さ、行こ。すっごく寒いからココアでも飲みたいにゃ」

「じゃあ、私、美波―ニャ呼んでくるね」

私たちは。

私たちの関係は。

愛情のような、愛情でないような、それともただの勘違いなのか。

ただの友情に過ぎないのか。それとも情愛に振り回されているだけなのか。

そんな綱渡りのスリリング。

私はこの関係がとても好きだ。

雨が止んで、雲間から光が差し込んできた。

私たちの見えない未来のまばゆさに目を細めながら、私は先を歩いているみくちゃんの元に走っていった。

                                          END

 

駅付近の洋服店、出口。

「ミナミ、チョコレートです。一生懸命作りました!」

「ありがと、アーニャちゃん。私も、はい」

「ヤ シャスリフ!!!」

「「!!??」」

その後、チョコをスムーズに渡し合える美波-ニャのアダルトなカッコよさに衝撃を覚えたみくりーなが美波の大人の秘密を探り始めるのはまた別の話。